lstf's blog

いつでも好奇心

ロックリー批判側にも陰謀論が浸透、キャンセルカルチャーまで発動する事態に……

トーマス・ロックリー氏の著作に端を発する、戦国時代における黒人奴隷についての論争はまだまだヒートアップしている状況ですが、最近はニュース系ユーチューバーの影響か、ロックリー氏を批判する側にもかなりおかしな発言が見られます。

ロックリー氏が主張していないことまで批判する人が増え、弥助騒動を「歴史戦」にしたがっている人も目立ってきました。

togetter.com

このまとめ中で特に重要なのは、以下の発言です。

ロックリー氏は「日本が黒人奴隷発祥の地」などとは主張していません。

ロックリー氏が『信長と弥助』で書いているのは「地元の名士のあいだでは、権威の象徴としてアフリカ人奴隷を使うという流行が始まった」です。

黒人奴隷が権威の象徴になるということは、日本全国に黒人奴隷がたくさんいたと言っているわけではないでしょう。それなら権威にはならないからです。

上記のロックリー氏の主張が正しいものなのかはきちんと検証されるべきですが、ロックリー氏の主張を拡大解釈したうえで、「日本に黒人差別の罪をなすりつけようとしている」などと言い出すのはただの被害妄想にすぎません。

ここには「反日勢力が日本史を改竄し、差別大国に貶めようとしている」という陰謀論的思考が見え隠れしています。

 

このようにロックリー氏の主張を曲解した結果、彼への敵愾心が煽られてしまい、ロックリー氏の解雇を求める署名まで始まってしまいました。

togetter.com

Change.orgではこの署名は現在審査中になっていますが、これは明らかにキャンセルカルチャーです。

著作の内容を理由に解雇を求める人が多数出てくるようでは、学問の自由はおびやかされます。言論にはあくまで言論で対抗するべきでしょう。

キャンセルカルチャーはウォーク左派だけが使える武器ではありません。活動家のやり方を学習すると、誰もが真似したがるのです。言論で対抗するより、相手の活動の場を奪う方がよほど簡単であるように思えるからです。

ですが、もしロックリー氏が本当に解雇されてしまったら、彼は「殉教者」のような扱いを受けるでしょう。そうなるとオタク嫌いのウォーク左派が「ゲームファンが黒人差別を扱った著者を燃やし、過去を抹消しようとした」などと言い出しかねません。

弥助騒動のステージが政治闘争に移ってしまったら、本来なされるべき史実の検証など置き去りにされてしまうでしょう。

 

今回の騒動は、人がいかにたやすくデマや陰謀論に引っかかるかの実例です。人は自分が信じたいことだけを信じ、敵とみなした側を悪魔化するので、炎上騒ぎはなかなか沈静化しません。困ったことに、冷静でない人ほど声が大きく、インフルエンサーや動画配信者も利益を得るため対立を煽るので、事実はつねに無視されがちです。

本来、この件にはそろそろロックリー氏本人からコメントが欲しいところですが、今ネット民の前に姿を現してもまともに話を聞いてもらえることは期待できません。だからこそ、SNSから姿を消しているのでしょう。こうした騒ぎを見るたびに、まだ人類にはSNSは早すぎたのではないか、との思いを強くするばかりです。